鈴の栞
「彼ね、ここでバイトしてるんだよ。驚いた?」
「驚いた、っていうか……」
目の前の店員さんもとい手嶋先輩は、茶髪とはいえ一応高校生なわけで。私たちの通う高校は、校則で生徒のバイトは禁止されているし……というかそんなことよりも、もっと忘れてはいけないことがある。
手嶋先輩は現在高校三年生。只今絶賛追い込み中の、受験生のはずだ。
「こんなとこで、何してるんですか……」
「え?」
「バイトとかしてる場合じゃないでしょう!今何月だと思ってるんですか?!落ちますよほんとに!」
図書室ではいつも寝てるから、家に帰って勉強してるのかと思えば……何だバイトって!お前は受験を舐めてるのか!
目の前の茶髪男に掴みかかる勢いで立ち上がった私を、木村先生が慌てて宥めにかかる。……頭に血が上った私とは裏腹に、男二人は至って冷静だ。
「暁人、飯山さんに話してないの?」
「別に話す必要ないと思ったんだ、けど」
「なんだ……お前そういうことは言わないのね」
「何の話ですかっ!」
私が思い切り睨みつけると、肩を竦めて黙り込む二人。少しの沈黙の後、最初に口を開いたのは手嶋先輩だった。
「ネコちゃん……俺、大学には行かないんだよ」