鈴の栞
四頁
蕎麦屋からの帰り。電車の窓から流れていく夜景を眺めながら、私はひどい倦怠感に襲われていた。
木村先生の言っていた通り、すみれの蕎麦は美味しかった。機会があれば、また行ってみようとも思う。―――でも、今はそんなことよりも。
『俺、大学に行くつもりはないんだ。受験はしない』
だからバイトをしているのだと、手嶋先輩は言った。
私たちの通う高校は、所謂進学校というやつで。在校生のほぼ全てが何らかの大学に進学するため、それに沿ったカリキュラムが組まれていて。私の周りも皆、大学受験に向けて勉強していて。
だから、彼もそうなのだと。そういうものなのだと。
全部、私の思い込みだった。
「………っ、」
胸の奥が焼けるような、そんな感覚。まるで、裏切られたかのような。自分でも、この感情が何なのかよくわからない。
だって、進学するもしないもそんなことは個人の勝手で、私には一切関係がない。手嶋先輩が受験しないことだって、「ふーんそうですか」で済む話だ。
………それなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。
自分自身のことすらよくわからない。こんな私が、彼の何を知っていたというのだろう。
何もかもに、嫌気がさした。