鈴の栞
 


 翌日の放課後から、私は図書館へ行くのをやめた。行けば高確率で手嶋先輩と会うことになる。今は何となく、彼の顔を見たくなかった。
 きっと、わけもなく無性に苛立ってしまうだろうから。

 いつもの勉強場所を使えなくなり、当分の間代用することにしたのは、自習室。手嶋先輩の言葉を借りれば、「野良猫の巣窟」のようなところだ。気乗りはしないが仕方がない。
 初めの内は、自習室常連生徒のテリトリーを見極め、大体の顔ぶれを覚える。それからいつも空いている席をいくつか把握し、その中のひとつを自分の新しいテリトリーにした。あとはここの常連だ、という顔をしてひたすら勉強するだけ。

 ……「だけ」といっても、ここまでくるのに五日は費やした。自習室って恐ろしい。



「………はあ、」

 自習室に鞍替えをして二週間ほど経ち、慣れたかと言われれば、それほどでもなく。ペンを片手に、私は小さく息を吐いた。
 自習室は図書室に比べ随分と狭い割に、生徒の数はやたらと多い。人口密度が高く、精神的に窮屈で息苦しい。

 私語は禁止、物音を立てるのは極力控え、おまけに休憩もしづらい。周りの生徒が一心不乱に勉強していると、休憩している自分が浮いて見えるのだ。


 
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