鈴の栞
……図書室に、帰りたいな。
何度そう思ったか知れないが、その度に私は首を横に振って思考を払い落としていた。
だって図書室に戻れば、手嶋先輩がいる。彼にだけはどうしても会いたくない。
そして思い知った。図書室へ行かない限り、本当に彼と会う機会は全くない、ということ。彼との接点はあの場所だけ。所詮、それだけの“縁”なのだ。
そんなこと、わかっていた。最初から、わかっていたのに。
「………」
ペンを握る手に、力が入る。……結局私は何がしたいのだろう。手嶋先輩が進学しないということを知って。急に嫌気がさして。会いたくない……というか、どんな顔をして彼に会ったらいいのかわからなくて。
そして自習室に逃げ込んで。……自分のやっていることは、一体何の意味があるのだろう。
そもそも手嶋先輩って、私の何?どうしてこんなに彼のことで悩むの?その必要性は?
考えれば考えるほど、答えが遠退いていく。ループに嵌まって、抜け出せなくなっていく。
がたん、とわざと大きな音をたてて席を立った。周囲からの視線が一気に集まるのを感じたが、そんなことはもう知らない。やってられるか。
私は荷物を手早くまとめて、自習室を後にした。