鈴の栞
足の赴くままに辿り着いた先は、図書館。入口玄関前で立ち止まると、脱力したようなため息が漏れた。
……結局、ここに来てしまった。
どうしよう、と足元を見つめる。二週間も来ていなかったせいで、なんだか足を踏み入れ難い。それに手嶋先輩もいると思うと、増して気が進まない。
どうして彼に会いたくないんだっけ、と考え、ああそうか自分が苛立ってしまうからだ、とひとりで結論を出す。
……ていうかそもそも、私は何を怒ってるの?先輩のこと?何?何がそんなに気に食わないわけ?
相変わらず思考回路がわけのわからない自分に、無性に腹が立つ。
「……もう帰ろ」
もういい。面倒臭い。今日は家に帰って、早く寝よう。
目茶苦茶になった思考を放り出し、私は踵を返して歩き始めた。
「―――ネコちゃん!」
途端、実に二週間ぶりに聞く声に呼び止められた。何の気なしに後ろを振り向いて―――私はひどく後悔した。
「……げ」
「あ、やっぱネコちゃんだった。あのさあ、」
図書館の玄関に立っていたのは、私のここ最近の悩みの元凶・手嶋先輩。彼が手を振りながらこちらに一歩足を踏み出した瞬間、堰を切ったように私の足は走り始めていた。