鈴の栞
 


「久しぶりだね、ネコちゃん」
「………」
「ちょっとお話しましょ?」

 うんともすんとも言わない私に苦笑しながら。手嶋先輩は私の腕をがっしりと掴み、元来た道を戻り始めた。
 振りほどこうと抵抗してみたものの、相手は男だ。力で敵うはずがない。腕を引かれるまま、諦めて大人しくついて行き、辿り着いたのはまたも図書館。

「図書室……の中で話したら怒られるよな、木村センセに」

 じゃあどこにしよう、と独り言のように呟き、先輩は再び歩き始める。連れていかれたのは、図書館横の多目的広場。花壇が多く設置されているそこは、高校内で春の名所と呼ばれている場所だ。

 その広場にある木製のベンチに、二人並んで腰掛けた。


「つっかれたー!ネコちゃん超足速いね。おかげでいい運動になったけど」
「………」

 大きく背伸びをする先輩の隣で、私は黙ったまま。まだ花の咲いていない花壇を見つめ、そっと息をつく。
 先輩はまた口を開いた。

「なんで図書室来ないの?」
「っ、」
「もしかして、俺のせいだったりする?心当たりがないわけでもないんだけど」

 笑ってそう言う彼の声に、何故か泣きたくなってくる。


 
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