鈴の栞
「………んー…」
人の気配を感じて目が覚めたらしい。組んだ腕の中に伏せていた頭を横にずらし、ちらりと片目で私を見る。
「……なんかよう?」
不機嫌そうなくぐもった声が私に問う。……何か用、ってそれ私の方が聞きたいよ。図書室に何か用なんですか茶髪さん。
「……そこ、私がいつも座ってる席なんですけど」
絶対この髪染めてるよな、なんて思いながら、私も精一杯睨み返してみる。すると、茶髪男子は心底だるそうに上体を起こした。
こちらを見上げてくる顔に見覚えはない。雰囲気からして、三年生だろうか。
「……でも今日、俺のが先だったっしょ?早いもん勝ち」
「………う」
それを言われてしまうと、返す言葉がない。確かにそうだ。図書室でも自習室でも何でも、自由席は早い者勝ち。
暗黙のテリトリーを張っているのは常連だけで、たまに来るだけの人にとってそんなことは知ったことではない。
この人の言うことは何も間違っていないのだ。
「……あ、わかった。もしかしてあんたアレでしょ、勝手に縄張り作ってるヒト。野良猫みたいなヤツ」
渋い顔をした私を見て、頬杖をついた茶髪がニヤリと笑う。
………ムカ。