鈴の栞
それに俺、推薦してもらえるほど頭良くないし、勉強熱心でもないし。……そう言う先輩は相変わらず笑っているけれど、それが本心なのかどうかは私にはわからない。
そして私は、それに関してどうこう言う権利も資格も持ち合わせていない。だって全ては先輩が決めたことだ。自分の家のことを第一に考えた先輩が、自分で出した答えなのだ。
だから彼の選択は絶対に、間違っていない。
………でも。
「……先輩は、それで良かったんですか」
進学校に来たということは、最初は大学へ進学する意思があったということだろう。
それを彼は諦めた。成績があまり良くないだとか、勉強があまり好きではないだとか、借金は嫌だとか、……そういうところも確かにあったのかもしれないけれど。
良かったんですか、あなたはそれで。
「……そういうふうに聞いてきたの、ネコちゃんが初めてかも。家の事情を話したら、皆『ああそう』ってすぐ頷くんだけど」
ま、俺がこんな性格だから、皆もあんまり気にしなかったんだろうね。
日の落ちかけた空を見上げた先輩は、やっぱり笑っていた。
「後悔はしてないよ。俺自身がそうしたいって決めたことだからさ」