鈴の栞
午後六時を回り、すっかり暗くなった空の下を二人で並んで歩いていく。手嶋先輩と一緒に下校するのは随分と久しぶりだった。二週間前まで図書室では毎日顔を合わせていたが、帰りの時間まで同じになることは滅多になかったのだ。
最寄り駅の構内に入り、上り線側と下り線側とに分かれる。その手前の階段に差し掛かったところで、私たちは立ち止まった。
「……先輩、今からまたバイトですか」
尋ねながら見上げると、電子掲示板で発車時刻を確認していた先輩と目が合った。彼はため息混じりに破顔する。
「そー、『すみれ』でね。おやっさんがさあ、人使い荒くてマジ大変」
「帰りっていつもどのくらいなんですか?」
「んー……うち酒とかも出す店だから、結構遅め。客が切れなかったら、日付変わるかな」
「え、そんなに……」
……それは予想以上の重労働だ。もっと軽い仕事だと思っていた。
「時給もやっすいし、そんくらい働かないと稼げないからねー。足りない睡眠時間は図書室とかで補ってるけど」
「ああ、……それで」
なるほど。これで、先輩が放課後に図書室でひたすら寝ている謎が解けた。高校卒業のために一応授業は受けに来ているが、あくまで先輩の生活はバイトが主体なのだ。