鈴の栞
「ま、今となっては定時制に行けば良かったなーって思うけどね。でもせっかく偏差値高い高校受かったし。辞めるのはもったいないって親戚総出で言われたから」
先輩が言うと、あまりにも軽すぎて真剣な話が冗談に聞こえてきてしまう。彼自身がそういう性格だというのなら、それは仕方のないことだが。
……先輩の目に、この高校での三年間はどう映ったのだろう。バイト漬けの日々を繋ぐ、幕間的なものでしかなかったのだろうか。
もしそうなら、少し悲しいと思ってしまうのは、私のエゴだろうか。
「あ、そろそろ電車来るかな……じゃあネコちゃん、」
「はい」
「明日からはまた来いよ、図書室に。待ってるから」
去り際に私の髪をくしゃりと撫でて。後ろ手で手を振りながら、先輩は下り線への階段を上っていく。
それを見送り、私も上り線方向へと足を進めた。
いつの間にか消えていた、よくわからないモヤモヤとした嫌悪感。しばらく先輩と一緒に過ごしたことで、気分が軽くなったのかもしれない。
何より、先輩が自分のことを私に話してくれたのが嬉しかった。誰かのことを知るというのは、こんなにも嬉しくて愛おしいのだ。
電車を待つ私の顔には、自然と笑みが浮かんでいた。