鈴の栞
 


 ……何、野良猫って。そのしたり顔、めちゃくちゃ鼻につくんですけど。
 言い返してやりたいが、彼の台詞はあながち間違っていない……というかむしろ正しいので、反論できず。

「……もういいです。睡眠の邪魔してすみませんでした」

 代わりに、皮肉を込めてそう言って彼に背を向ける。諦めて隣の六番テーブルに荷物を置こうとすると、突然後ろから腕を掴まれた。

「っ、……?」
「いいよ、俺相席とか全然気になんないし。このテーブル使えば?」

 そんなにここがいいなら、と彼は笑う。ひどく決まりの悪いような気分になって、私はその腕を振り払った。
 不機嫌な私に、彼は小首を傾げてみせる。

「そんな怒るようなこと?……取られんのが嫌なら席に名前でも書いとけばいいじゃん」
「別に怒ってるわけじゃ……」

 ただ、自分が我が儘な女みたいで。ちょっと、嫌だなって思っただけ。

 押し黙った私を見て、彼がもう一度腕を掴んできた。「ん」と向かいの席を指し示す。
 ここまでされて断るのも気が引けて、私はそのまま彼の斜め向かいの席に腰を下ろした。



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