鈴の栞
 


 木村先生がどこかへ行ってしまった後、手嶋先輩は再び私の身体に抱き着いてきた。今度は力任せにではなく、背中に回された腕がふわりと優しい。
 それでも、拘束力は凄まじく……どう抵抗しても放してくれそうにないので、しばらく放っておくことにした。他の生徒が入って来たら、今度こそ殴ってでも引き剥がすけどね!


「……先輩、」
「んー?」
「木村先生と仲いいんですね」
「……さっきの会話で仲いいように見えた?」

 勉強は諦めて手持ちの本を読むことにし、ふとそんなことを聞いてみると。目が節穴だよネコちゃん、なんて言いながら、私の肩に顎を乗せる先輩の声が急に不機嫌になった。

「喧嘩するほど何とやらって言うじゃないですか」
「……ヤメテ。陽と仲いいとか、死んでも有り得ないから」
「……“陽”?」

 『陽』って、『木村陽介』から取った呼び名?……そういえば、この間先生とすみれに行ったとき、先生は先輩のことを『暁人』と呼んでいたような気がする。学校だけでの付き合いにしては、やけに親密すぎるような……。

「……先輩と木村先生って、どういう関係なんですか?」

 思い切って聞いてみると、先輩は何度か瞬きをして至極普通に返してきた。


 
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