鈴の栞
 


「あれ、知らなかった?俺と木村センセはイトコだよ」

「………え?!」

 そんな知らなかったも何も、初耳というか、……親戚だったんですかお二人!
 私は唖然としながらすぐ傍の先輩の顔を見つめる。どうりで親しいわけだ、と納得しつつも、どこか意外だと思う気持ちを拭い切れない。

 だって、物腰柔らかな木村先生と、とにかく軽い手嶋先輩……二人とも雰囲気が掛け離れすぎている。

「ていうかネコちゃん、それ俺の台詞なんだけど」
「え、」
「こないださあ、陽と一緒にすみれに来ただろ。あれ何?デート?」

 ムッと眉間にしわを寄せた先輩が、私を抱きしめる腕の力を強めてきた。必死さの窺える先輩の仕草がなんだか可愛く思えてきて、思わず私は笑ってしまう。

「面白いもの見せてあげるから、って結構強引に押し切られて。先生はデートだって言ってましたけど」
「……あのヤロー、俺をパンダ扱いしやがって……」
「……でも、あの時先生が連れて行ってくれなかったら、私まだ先輩のこと、何も知らなかったかもしれない」

 他人に興味のなかった私が、誰かのことを知りたいと思ったのは初めてで。
 ほんの少しでも先輩のことを知れて、嬉しかったから。


 
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