鈴の栞
日々は、瞬く間に過ぎていった。年が明けても私は相変わらず図書室で勉強をしたり、本を読んだり。その斜め向かいで、手嶋先輩はやっぱり熟睡していて。何も変わらない毎日だったけれど、それでも嬉しかった。
彼の傍にいられることが、幸せだった。
明日からはもう、そんな彼はいないのだ。
「寂しい?」
木村先生の問いかけに少しだけ、と答えると、先生はまた笑った。
「素直になったね、飯山さん。それ暁人に言ってあげたら、泣いて喜ぶと思うよ」
「……それは…ちょっと……」
寂しいだなんて本人の前で言ったら、顔から火が出そうだ。また真っ赤だと笑われながら頬を突かれるに違いない。
私が曖昧に笑って誤魔化していると、突然、先生が真剣な表情で私を見つめてきた。
「……飯山さん、」
「はい」
「ありがとうね」
「……はい?」
変な声が出て、私は慌てて咳ばらいをした。驚いた……突然彼にお礼を言われるようなことをした覚えはない。
首を傾げて見上げる私に、先生は穏やかに微笑む。
「暁人を追い出さないでいてくれて、ありがとう」
「え……?」
「二学期頃から周りが皆受験勉強に集中し出して、疎外感がすごかったらしくて。だから図書室に避難してたんだよ、あいつ。安らげる場所がここしかなかったんだ」