鈴の栞
 


 友達は皆受験勉強でピリピリしていて、休み時間や放課後も迂闊に戯れることができない。バイトまでの空き時間に休んでおきたいが、居残り組が一生懸命勉強している中、教室で眠るのも憚られる。
 受験をしない身で、皆の邪魔をするわけにはいかない。……だから。

 だから、彼の唯一の居場所を奪わないでいてくれて、ありがとう。―――先生のその言葉に、私は胸が詰まった。

 手嶋先輩もやはり、孤独だったのだ。


「……私、お礼を言われるようなことは、何も」
「ううん、彼は嬉しかったと思うよ。精神的につらいときに飯山さんに出会えて。話し相手ができただけでも」

 君がここに来なくなったとき、落ち込み方が尋常じゃなかったんだから、と先生は苦笑してみせる。

「……先生が、私を連れ戻せって言ったんですよね」
「そう、鬱気味になったあいつを見ていられなくてね。そんなに落ち込むなら、彼女のところに行ってこい!って」

 ……手嶋先輩が、私との時間を心の支えにしてくれていた。私と同じように、彼の心の中にもまた、ちゃんと私がいた。
 こんなに嬉しいことが、他にあるだろうか。

 それだけで、十分だ。
 私は笑って、先生にありがとうと伝えた。……ありがとう。私と彼を、もう一度出会わせてくれて。


 
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