鈴の栞
「じゃあ、邪魔者は退散しようかな。手嶋くん、ごゆっくり」
「………っ、」
そして、ひらひらと手を振りながら図書室を出ていく木村先生を、姿が見えなくなるまで散々に睨みつけ。再びこちらを向いた手嶋先輩は、完全にむくれていた。
……気まずすぎる。どうしてくれるんですか先生!
「あ、あの先輩、」
「……なに」
「卒業おめでとうございます」
「……おう」
ぶっきらぼうに頷くと、先輩はいつもの特等席に腰掛けた。その手には鞄と共に、臙脂色の見開き型卒業証書入れが握られている。
そんな彼を見ていると、思わず顔が綻んだ。先輩、やっぱり来てくれた。……たったそれだけで、無性に嬉しくなる。
「先輩、髪黒くしたんですね」
今日は斜め向かいではなく、先輩の真正面の椅子に座った。すぐ目の前に先輩の顔が見えるのは、なんだか新鮮だ。
見慣れた茶髪から綺麗な黒髪に変貌を遂げていた彼は、ようやく少し笑ってくれた。
「……さすがに卒業式はねー。昨日の予行で注意されたから、染め直して来た」
「似合ってますよ、黒髪も」
「……なんか今日のネコちゃん、いつもと違うー」
普段は絶対そんなこと言わない、さては陽に何か吹き込まれただろ、と疑いの目を向けられ、私は慌てて首を横に振る。