鈴の栞
 


 大好きな大好きな、その笑顔に。今にも溢れ出しそうな涙を堪え、私も笑って応えた。
 握り合った掌が、段々と温もりを帯びていく。

「やっぱネコちゃんの手、超あったかー」
「……そうですか?」
「俺の手、冷たいっしょ?冷え性なのよ、男のくせして」

 苦笑しながら、先輩はそのまま自分の頬に私の手を当てた。指先に伝わるのは、ひんやりとした人肌の感触。

「実はねえ、この席が一番暖房の風がよく当たるんだよね。ネコちゃんから略奪したココ、図書室で一番あったけーの。色々試してみた結果」
「え、そうだったんだ……」
「知らなかったっしょ」
「……はい」

 去年の冬、初めて出会ったときから今日という日まで。先輩が固く死守して譲らなかったこの席には、そんな秘密があったのか。
 確かに言われてみれば……私にはよくわからないが、入口付近よりはここの方が暖かいような気がする。少しだけ。

 ということは、このほんの少しの温度の違いが、私を彼と引き合わせてくれたのだ。……いや、きっとそれだけではない。
 私が勉強場所に図書室を選んだこと、この八番テーブルを使い始めたこと、寒がりな先輩が睡眠場所にここを選んだこと、先輩が受験をしなかったということですら。―――全てのあらゆる偶然が合わさって、初めて私は彼と出会うことができたのだ。


 
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