鈴の栞
背中に回された腕に、ぎゅ、と力が入る。いつの間にかこちら側に来ていた先輩に立ち上がらせられた私は、息もできない程強く抱きしめられていた。
「せ、んぱ……」
「ありがとうネコちゃん!超嬉しい!大事にする!」
背の高い先輩にぬいぐるみのごとくぎゅうぎゅうに抱きしめられ、目眩を感じる。段々と足元がふらついてきた私を、先輩はひょいと抱き上げた。
「卒業式の後のクラスのホームルームでさ、最後にひとり一言ずつ挨拶することになったんだけどね、」
「え?……はい、」
何の脈絡もなく始まった話に私が瞬きをすると。先輩は楽しそうに笑いながら続けた。
「ただの挨拶じゃつまんないから、皆で今後の抱負を言い合おうってことになって。……俺、なんて言ったと思う?」
「さあ……『俺はいつか社長になる!』とか」
「あはは、それもいいけどね。……正解は『偶然可愛い野良猫を拾ったんで、頑張って飼おうと思います!』―――ねえ、ネコちゃん」
抱き上げられた状態でもう一度抱きしめられ、私は先輩の首に腕を回した。同じ目線の高さになった私の額に、彼は自分の額をくっつける。
「これからもずっと、俺の傍にいてください」
涙をこぼしながらも小さく頷いた私に、先輩は唇が優しく触れ合うだけのキスをした。