鈴の栞
「……先輩、もう就職先は決まってるんですか?」
木村先生のことを話し続けても、きっと埒が明かない。とりあえず手嶋先輩の機嫌を元に戻そうと、話題を変えてみた。
彼は、頭を掻きながら頷いてみせる。
「うん、父さんの昔からの知り合いがコンピュータ関係の会社経営しててさ。俺さえ良ければ、って高卒で採用してくれた。……まあコネだね、父さんにマジ感謝」
「へえ……」
「高卒でできる仕事かわかんねえけど、せっかく働ける場所貰えたから死ぬ気で頑張るわ。最初は雑用ばっかだろうけど……色々教えてもらいながら、ね」
だから応援してね、ネコちゃん。そう言って私の頭を撫でる手が堪らなく愛しくて。笑って頷けば、彼も優しく笑ってくれた。
彼ならきっと大丈夫だ。大切な人を失っても、毎日がどんなにつらくても、前向きに歩いていける手嶋暁人なら。
「私も、受験頑張ります」
「ん、俺の分まで頑張れ。いい大学行けよ」
「え……」
冗談だよ、と頬をつまんできた先輩の手を、べしりと叩き落とす。無言で睨みつけてやると、今度は抱き着かれた。
「やっぱネコちゃんかわいー!冗談真に受けちゃうほど純粋なとことか、もう大好き」
「………」
怒っているのに、大好きと言われて顔を赤くしている自分がいる。……なんか悔しい。