鈴の栞
「ねえネコちゃん、俺のこと好きー?」
「………嫌いです」
ガーン!という音が聞こえてきそうなほど悲しそうな表情をした手嶋先輩に、つい吹き出して笑ってしまった。
「嘘、好きですよ。先輩も冗談真に受けてるじゃないですか」
「ネコちゃんが言うと冗談に聞こえない……」
ホッと胸を撫で下ろす先輩から、少し視線を落とせば。彼の肩に下がる鞄に括り付けられた赤い五角形が、ゆらゆらと揺れている。それに合わせ、リン、と小さく鈴が鳴った。
先輩のお守り。いつも傍にはいられない私の代わりに、どうか、彼のことを見守っていてください。
そして、どうか、どうか。
「先輩、」
「ん?」
「高校生活はどうでしたか?」
「楽しかったよ。ネコちゃんとも出会えたし、……ここに来てほんとに良かった」
この、私の大好きな彼の笑顔が、ずっとずっといつまでも絶えることがありませんように。
これからも先輩とこうして肩を並べて歩いていけたらいいな。……駅へと向かう道すがら、そんな私の思いに応えるように、そっと差し延べられた大きな彼の手を。私は強く強く、握りしめた。
-END-