鈴の栞

二頁

 


 何度数え直しても結果は同じ。図書室の読書スペース、向かって左列の奥から二番目。私愛用八番テーブル。


「………なんで」

 翌日の放課後。図書室のガラス戸の前で、私は小さくため息をついた。
 距離はあるが、遠目で見てもすぐにわかる。私の特等席に座って突っ伏しているあの茶髪。……今日はいつもより急いで教室を出てきたのに。またしても先を越されてしまった。

 がっかりしながら室内に入ると、手前の貸し出しカウンターに司書の先生がいるのを見つけた。すかさず駆け寄り、声をかける。

「木村先生、」
「ん? ああ、今日は早いね。どうしたの?」

 下がった目元が優しい印象を与える、図書館司書の木村先生。ここに通う内に顔見知りになり、仲良くなった。
 そんな彼に、耳打ちするように聞いてみる。

「あの、八番テーブルで寝てる人、誰ですか?」
「え?……ああ、彼、三年生の手嶋くん。昨日『俺のベストプレイスを見つけた』って言ってたけど……あそこって君の特等席だったよねえ」

 どうする?強制退居させようか? と苦笑する木村先生に、私は首を横に振った。そこまでする必要はないが……何ですか、ベストプレイスって。


 
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