鈴の栞
「まあ確かに……そうだね、あの席が一番いいかな」
意味深にひとりで納得している木村先生に、何のことだ、と視線を送る。ちょうどその時図書室のガラス戸が開き、生徒が二人入ってきた。同学年の図書委員の人たちだ。
「お、来た来た。僕今からちょっと外に出るから、しばらく二人でよろしくね」
木村先生がそう告げると、二人ははーいと返事をする。そして私に頑張ってね、と一言笑いかけ、彼は図書室を出ていってしまった。
「どうしたの?貸し出し?」
「ううん……何でもない」
カウンター前にぼうっと立っている私をきょとんとした様子で見つめてくる、見知った図書委員の子。彼女たちに聞いても仕方がない、と、私はカウンターを離れた。
「………」
八番テーブルへ向かい、熟睡しているらしいその背中を見つめる。何なのだろう。この席が一番いいって、どういうこと?
肩を落としてため息ひとつ、昨日と同じ、彼の斜め向かいの席を引いた。
「ん………」
「あ、」
途端、彼の肩が小さく動いた。椅子の音で目が覚めてしまったらしい。彼はゆっくりと上体を起こし、目をこすりながらこちらに視線をやる。