鈴の栞
「そんなため息つくなよ。何て呼んだらいい?……あ、ちなみに俺、手嶋暁人ね。仲いいヤツからは『てっしー』とか『あっきー』とかって呼ばれてるけど」
「……はあ」
にこにこと笑いかけてくる彼に、今度は私が眉を寄せた。どうしていきなり自己紹介が始まったんだ。意味がわからない。
「ネコちゃんの名前は?」
「………」
「だんまりかよ。つれねえなー……っと!」
突然彼は私の化学の問題集を取り上げ、裏表紙を見る。……あ、しまった!それ、名前書いてる……
「『飯山寧々』……ネネちゃん?かっわいー名前」
「………」
「お、『ネコ』のネネちゃん?一字違いだ。超偶然! じゃ、あだ名はネコちゃんで決定な」
「……あの」
「なに?」
「名前とか、呼び合う必要あります?」
さっきからずっと言いたかったことを、ようやく言えた。だって私たちは、たまたま図書室の座りたい席が被っただけの赤の他人。学年も違うし、接点なんてほとんどないだろう。
そんな彼と私が、馴れ馴れしく呼び合う必要性がわからない。いざとなればそれこそ、「ねえ」だとか「あの」だとかで十分通用する。
私が首を傾げてそう問い掛けると、手嶋先輩は面白くなさそうに口をへの字に曲げた。