心さん、そろそろ俺にしませんか?



「あ~あ、負けちった~」


試合後、トイレ休憩ってことで俺はイチと体育館の外へ出ていた。そして出て早々、イチの口から言葉がこぼれた。


「お前は勝ったじゃん」


「バ~カ。あれは勝ったって言わねぇよ!」


手にしていたタオルで自分の頭をガシガシッと拭くイチ。


「負けるって悔しいな」


草花が揺れる。俺達の影が揺れる。そして、イチの瞳も揺れる。


「泣いてんなよ」


「バッ、泣いてねぇしっ」


中学の時から、コイツは試合に負けるとすぐに泣いてた。もちろん、勝っても嬉し泣きしてたけど。


でも、そんな素直なイチの涙……俺は嫌いじゃない。


「拭けよ、ほら」


持っていた俺のタオルをイチの顔面に投げる。ナイスキャッチが出来なかったイチは、一度地面へ落としてからタオルを手にした。


「おわっ、汚いじゃんかよ!」


「取れなかったお前が悪い」



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