心さん、そろそろ俺にしませんか?



軽い足取りで陸達の元へ向かったイチ。イチの素直で純粋な姿を見て、少しだけ胸が痛くなった。


イチは、物心がついたときから、行事ごとや誕生日など家族で過ごしていないらしい。


父親は仕事人間、母親は……他に男がいるみたいだぜ、と以前笑いながらそう言ったイチ。


いつもニコニコしてるけど、ふとしたときには大人しい表情も持ち合わせている。寂しげなイチを見ると、いつも放っておけなくなる。


人と集まるのが好きなイチ。でも、それは家の中では叶わないから、俺や他の友達と騒ぐんだと思う。


「みんな喜んでた!」


だからその話題にはあえて触れない。イチが本当に辛い時に手を差し伸べてやれるように、俺は心構えをしているだけだった。


「ていうか、その日部活何時までなんだ?」


「そういえばキャプテンも言ってなかったな~?今日聞くか!」


おう、と返した俺の言葉を合図に、自分の席に着いた俺達だった。



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