心さん、そろそろ俺にしませんか?
「いけいけ山崎ー!」
練習開始後、武道館内には声援の声が響き始めた。普段は俺達の音以外は聞こえないこの場所。声援は不思議な気分だ。
「おうら、そこ!もっと素早く!」
そして、聞こえてくるのはほぼ心さんの声ばかり。心さんは声出しの練習いるのかってツッコみたくなる。
でも、心さんの声が聞けて嬉しい。それに、練習だとしても、誰よりも大きな声で俺の名前も呼んでくれる。
「いいね~女子がいるのは。やる気でちゃう~」
隣で正座をしてミニゲームを見ているイチが呟く。
「お前は好きな人がいるからよけいだな?」
「静かにしろよ。もう説教はこりごり」
「も~心さんがいるからって真面目にしやがってつまんね~」
俺はいつでも真面目だ。そう思いつつも、意識は心さんの元に集中していた。
床の冷たさなんて気にならない。胸が温かい。それがやる気を起こさせてくる。
「次、原田!」
「はい!」
監督から指示が入り、俺は立ち上がった。