心さん、そろそろ俺にしませんか?
「一本!」
気がついたら、佐原先輩に一本取られていた。
「……ふっ、余裕」
面越しにそう呟いた佐原先輩は、特に大きな乱れが見られない。比べて俺は、肩で息をするくらい疲れていた。
「ありがとうございました」
あっけなく負けた。試合という試合にもならなかった。これはただのミニゲーム。それでも勝敗があって、負けると悔しさがこみ上げる。
「次、森原!」
「はい!」
イチや他の部員のゲームもぼんやりと眺め、気がつけばチア部の姿はなく、俺達の練習も終わりの時間になっていた。
「じゃあ、頼んだぞ!」
部活の終わりに俺とイチにニヤッとして言ったキャプテン。そう、今から罰当番の片付けが始まるのだ。
「キャプテン、帰りたいです~」
「ピッカピカにしたらな!」
そう言って、武道館へ向かわず監督の部屋へ足を進めたキャプテン。
「……まだ帰らないんすか?」
「おう。監督に呼ばれてるからな。キャプテンは早く帰りたくても帰れねぇよ!」
そう言って去ったキャプテンだった。