心さん、そろそろ俺にしませんか?
「おい、イチ!」
もう我慢が出来ず、声を張り上げて名前を呼んだ。すると、イチは立ち止まって俺を見た。
「話が」
「俺は何も話すことはない。澤本がお前に告ることも、お前が澤本を振ることも分かってた」
イチの目は鋭かった。
「だけど、今はお前といつもみたいにつるんでいられねぇや。澤本を振ったお前のこと、ムカついて殴っちゃいそうだから」
口元は笑っていたけど、目はマジだった。
「じゃあ、俺が澤本と付き合えばいいのかよ」
「そういうんじゃねぇよ。それはそれで嫌だ」
「だったらどういう……」
「ごめん。出来るだけ普通に接するから、もう何も言わないでくれ、頼む」
そう言って、今度こそイチは俺の前から走り去っていった。
イチが怒る理由、最初は分からなかったけど、考えていくうちに見えてきた。
好きな人が他の男に告って振られる、それは嬉しくて辛い。
俺も心さんが西川先輩に振られた時、心さんを振るなんてって少しは怒りがあった。自分にとってチャンスだと思っていても、やっぱり相手が大切に思える。
あの時の俺が、今のイチに重なって見えた。