心さん、そろそろ俺にしませんか?



「遠慮なく」


イチが少し近寄って来た。俺とイチの目が交わる。どちらとも、普段とは違うマジな顔つきだと思う。


「顔貸せ」


少しだけイチの方へ顔をやる。


ゴンッ


イチの拳が飛んできたと思ったら、鈍い音が俺の左頬に響いた。ってぇ、コイツ本当に殴りやがった。


「いくら、澤本がお前のことを好きでも、俺はお前と……優生と友達をやめんのは無理だ」


握り拳をつくったままのイチの目には、涙が浮かんでいた。


「嫌いになりかけた。だけど、お前を失いたくないって思った。……優生、ごめんな。避けてごめん。シカトしてごめんっ」


イチは涙をこぼしながら、俯いていた。コイツが泣くのは、試合で負けた時くらいしかない。そんなイチを泣かせてしまった。


「だから、頼むよ優生」


「え?」


「俺のことも殴れ」


は?何言ってんだよ、お前。


「俺は自分にムカついて殴った。だから、お前も自分にムカついてるなら、今すぐ殴れ」


矛盾してるけど、正しいのかもしれない。


心さんしか見ないって言いつつ、澤本へ曖昧に言葉を返した俺。きちんと振るべきだった。



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