心さん、そろそろ俺にしませんか?
「イチ、面貸せ」
強気な口調で言うと、イチはすんなりと顔を出してきた。右手で握り拳をつくって、前に出すものの、震えてなかなか殴れない。
「震えんなよ、殴れよ」
自分にムカつくなら。俺は再度力を込め、無我夢中でイチの左頬を殴った。
「ってぇ……」
痛そうにするイチを見ると、何とも言えない感情になった。これが、さっきのイチの涙に繋がったのかもしれない。
「イチ、悪かった。俺、お前と澤本を傷つけないようにって思ってたけど、結局はどっちも傷つけてた」
スラスラと感情が言葉となってこぼれ落ちていく。
「どっちも傷つかない方法なんてね~よ。お前も心さんも傷ついてんのと一緒だ」
怖かった。人を殴ると言う行為を初めてして、怖さを覚えた。
でもそれよりも、友達を失うことの方が怖いことに気づかされた。一生もんの友達となる奴を手放してしまうところだった。
こっちの方が、よっぽど怖い。
「あ~いってぇ」
「俺も痛いっつの」
そして2人で笑いながら、再び仰向けになって夜空を見上げた。
さっきまでとは違う。スッキリしていて清々しい気持ちだ。