心さん、そろそろ俺にしませんか?
息をのんだ。この審判の判断で勝敗が決まるんだ。正直、五分五分な試合だったから、判断が決まるまで何とも言えない。
「……!」
旗は、相手の勝利を示していた。
「…………負けた」
呆然として、相手の喜ぶ姿を眺める。部員の元へ戻ってきた先輩は、涙を流していた。
「……すまねぇ」
何も言えなかった。だって、悔しいから。この戦いで勝てば、次の試合があったから。まだ先輩達と戦える時間があったんだから。
勝ちたくても勝てない。もがいても明るい未来が見えない。人生ってそんなものなんだ。
「先輩のせいじゃないっすよ……」
そう言って立ち上がったイチ。
「俺達が力不足だったんです。大将の先輩を勝たせてあげられなかったんです。だから……プレッシャーを与えてしまって、すみませんでした!」
泣きながら頭を下げたイチ。
イチが泣くことはそうそうない。そのイチが泣いてる。俺の胸も熱くなった。
「俺達もすみませんでした!」
そんなイチに続いて、一緒に戦った剣士達が立ち上がって頭を下げた。
「お前らのせいじゃねぇよっ。俺が……」
そういう先輩は、イチ達の肩を抱いた。