心さん、そろそろ俺にしませんか?
「あ、いえ、その……」
「おい原田~2年目にしてそれか?部員全員知ってるぞ?」
てことは、もちろんイチも?うぉ、佐原先輩の目が怖い。
「五十嵐は小柄な奴だけど、かなり手強いぞ。目を光らせておけ」
「え?」
「お前、勝ち上がんなかったら分かってるよな?」
今すぐトイレに駆け込みたい。試合前にこんなに圧をかけられるなんて、佐原先輩は怖すぎる。
でも、負けるわけにはいかない。
─────☆
「試合を始めます」
そして、ついきた俺の初戦。審判と対戦相手の五十嵐に頭を下げる。
「よろしくな」
五十嵐からの言葉に返事はせずに、背を向けて定位置についた俺。自分を保つのに精一杯で、心に余裕なんてなかった。
「蹲踞」
竹刀を構えて腰を落とす。目の前には、俺と鏡合わせのように五十嵐が構えている。その姿を見た瞬間、竹刀を持つ手が震えた。
震えんな、俺。何……ビビってんだよ。
「始め!」
バシィッ!
一瞬だった。
攻める間も逃げる間もなく、俺は五十嵐に1本取られてしまった。