心さん、そろそろ俺にしませんか?
「はぁっ、はぁっ……」
息が上がる。体温も上がる。 肩で呼吸をしている。汗で視界が滲む。自分が分からなくなる。
まだ始まって間もないのに、俺……超バテてんじゃん。五十嵐の奴は余裕たっぷりじゃねーかよ。ふざけんな。俺だってやるときゃやる。やられっぱなしじゃカッコつかねぇよ。
「っやぁっ!」
俺の竹刀が五十嵐のほんの隙を見計らって、五十嵐の小手を狙った。その瞬間、面越しに五十嵐の顔がやべぇという表情が分かった。
でも、その五十嵐の表情と同時に俺の右足もやべぇことが起こっていた。
「1本!」
審判の旗が上がった。これで1ー1、ふりだしに戻った。安堵の息を吐くものの、右足の異変を気にしないわけにいかない。実は、さっきの小手を決めたと同時に、俺は右の足首を捻ってしまったのだ。
そんなに強く捻ったわけじゃないから、まだそんなに痛みはない。……まだ大丈夫だ。
「始め!」
再開した試合。途端に、俺と五十嵐の気迫がぶつかり合い、竹刀達が悲鳴を上げだした。