心さん、そろそろ俺にしませんか?
「気づいてるんか?もう白線やで」
攻める最中、五十嵐が呟いた。この白線を越えたら反則になる。実はさっき、一度反則をしているから、次も反則をすれば反則負けになって五十嵐が勝つことになる。
んなの分かってんだよ。だから、お前からの攻めを粘ってんだろーが。
「……っせぇよ」
感覚のない右足に力を入れて、竹刀からの重心を前にかけ、五十嵐を押し退け、その隙に五十嵐の小手と胴へ竹刀を叩き込んだ。
バシバシっ!
その音を叩きだした直後、俺は白線の外にいた。
「勝負あり!」
審判が手を上げ、試合を終える合図をした。同時に、周りからはどよめいた声がする。どっちが勝ったのか、負けたのか、分からないからだ。
俺も、分からない。最後はがむしゃらに竹刀を振っていて、気づいたら白線を越えていたから。
「2-1、原田!」
なんと、俺の方に勝利を示す旗が上がったのだ。副審の旗も俺を示している。俺……勝ったのか?
「蹲踞」
五十嵐と向き合って腰を下ろす。五十嵐と目は合わなかった。そして、立ち上がろうとした瞬間。
「原田!?」
右足が負傷していた俺は、ついにバランスを崩してしまった。