心さん、そろそろ俺にしませんか?
「てことで、お前は棄権になった。五十嵐が上がるからな」
「……はい」
医務室を出て、近くにあった椅子に腰掛けた俺と監督。監督からの言葉に渋々頷いた。しょうがねぇ、戦うにも戦えねぇし。
「お前も悔しいだろうけど、俺も悔しいんだぞ」
そう言った監督の横顔は、すごく残念そうに見えた。
「審判に棄権のことを伝えてくる。森原、原田を頼んだぞ」
監督の視線の先には、眉毛を八の字にしたイチがいた。監督の後ろ姿を見送った後、イチが俺の傍に来た。
「アホ!バカ野郎!」
そう言うなり、俺の頭をバシッと叩いたイチ。あのさ、俺一応ケガ人なんだよ。
「試合、五十嵐のペースに飲まれまくりだったじゃねぇかよ!」
「仕方ねぇだろ。アイツ強すぎ」
「でも、いい試合だった。お前怪我してんのに、最後まで粘って勝ったじゃん。最高だよ!」
俺の肩をバシッと叩いたイチ。だから、痛いって。
「勝ったけど、結局は負けと一緒だ」
あーあ。せっかく勝ったのに、五十嵐に譲っちまったじゃねぇかよ。
「それに、五十嵐の奴話しかけてきやがった。試合中にだぞ?どれだけ余裕なんだよってな」