心さん、そろそろ俺にしませんか?
俺達部員はすぐさま泣き顔を拭って、佐原先輩の後を追った。まだ泣くには早過ぎる。佐原先輩の背中がそう悟っていたから。
「始め!」
初戦は突破して、2試合目が開始した佐原先輩。相手は……春の大会で全国で準優勝だった高校だ。
バシィッ!
体育館内に佐原先輩と対戦相手の竹刀の悲鳴が響く。他のコートでも試合は行われているが、佐原先輩の試合は一段と熱く感じる。
「互角だな」
真剣に試合を見ている隣で、佐原先輩を見つめたままのイチがポロっとこぼした言葉。
「ここから見るとさ、2人の互角っぷりが分かりやすいよな。お互いの逃げ道や攻め口が分かってるっていうかさ」
先輩達は試合のコート近くで、俺達1・2年は2階から観戦している。上からの眺めだと、いつもと違う試合の見方が出来るんだ。
「優生の試合もココから見てたんだぞ。いろいろ分析したから、あとでマネージャーから聞けよな」
「ん、ありがとな」
試合のコートに目を移すと、審判が旗を上げ、佐原先輩の1勝が決まったところだった。俺達は大袈裟に喜ばず、小さくガッツポーズをして喜んだ。