心さん、そろそろ俺にしませんか?
届かない距離が見えました。
「声出してこう!」
竹刀の音とキャプテンの声が交差して飛び交う武道館。只今、部活中で素振りをしている最中だ。
「原田ぁ!背筋を伸ばせ!」
「はいっ!」
『はい』なのか『あい』なのかわからない言葉を絞り出して答えた。
季節は7月。防具をつけているから、滴る汗を容易く拭うことが出来ない。蒸し暑さを感じながら再び竹刀を振った。
「休憩!」
すぐさま防具を取り、外の空気を吸いに走った。あー、外は気持ちいい。
「優生、早いって~」
剣道着をパタパタさせながら、俺の元へ寄ってきたイチ。
「ココ、涼しいし」
「そんなのが理由じゃないくせに」
「…………」
「今日も元気だよね~心さん」
この場所からはグラウンドが見えやすい。だから、外練のチア部も見える。そう、心さんが見えるポジションなのだ。