黙って俺に抱かれてろ。
「うっせぇ。じっとしてろ」
突然地面に足が付かなくなって、不機嫌なその声に顔だけをわずかに動かすと…く、久我君っ!?
クラスの問題児、久我君に、なんとお姫さま抱っこをされていた。
「…あ、歩けるよ」
「んなワケあるか。いいから。黙って俺に抱かれてろ」
「…」
あたしが盛大に転んだのを見て、久我君は慌てて走ってきてくれたのかもしれない。
間近に感じる久我君の鼓動が、かなりドキドキ言っている。
「…あ、ありがとう」
「ん」
あたしを抱いて久我君は歩く。
彼の鼓動の早さに促され、あたしの鼓動もなぜか早くなる。
こんなところ、もしも彼氏に見られたらどうしよう…と、罪悪感がぬくぬくと芽を出す。
だけど、彼氏がいるのに久我君にドキドキするこの鼓動のほうが、もっと罪深い気がする。
先生の姿は、まだ見えない―…。