贖銅(ぞくどう)の刑
記憶の中の母親
「…ゴメンね、実君。さっき別れた所なのに…

家、飛び出して来ちゃってさ…」

「気にするなよ。俺も今夜当たり、丁度ここに来たいと思っていたからさ…」

二人は今、S県とN県の丁度県境にある、とある海岸に来ていた。

ここは、実が何か嫌な事や悲しい事があれば、気を休める為に訪れる場所で、今は、実が千歳にも共有を許した安らぎの場所でもあった。

「…本当に、波の音って、気が落ち着くね?」

「…所で、千歳は何で、こんな時間に家を飛び出してきたんだ?」

「うん。ええと、それはね…」

千歳は、先程母親と口論になった時の事を、苦々しい面持ちで実に話した。

「そうか。まあ、普通はそう言うだろうな。どこの家庭でも。

で、千歳はどうしたいんだ?

俺達のチームから、抜けたいのか?」

実の問いかけに、千歳は全力で首を横に振った。

「抜ける訳ない!ここしか、私の居場所ないって言うのに、抜けられる訳が…」

そう言うと千歳は、半泣きになりながら、実の胸にしがみついた。

そんな千歳の頭を、実はそっと右手で撫でてやった。
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