。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
俺は響輔に近づくと、こいつの腕を握った。
響輔の腕は夏の夜の熱気のせいか、いつもより体温を高く感じた。
響輔が顔をゆっくりと上げて眉を下げると
「俺、戒さんが好きです」
そっと一言呟いた。
「うん、知ってるて。俺もお前のこと好きやもん」
「お嬢も好きです」
「うん……」
「マサさんもタクさんも、壱衣さんもユズさんも…龍崎組のみんなが好きです。
その気持ちじゃあかんのですか。
リコさんにもこの気持ちじゃあかんのですか」
俺は響輔の腕を引き寄せるとすぐ傍に居る響輔の肩をそっと抱きしめた。
「気持ちの種類が違うんやろ。
朔羅に対する気持ち、俺への気持ち、組のみんなへの気持ち。
気持ちはみんな違う。
川上が求めてるのはお前が持ってる愛情とは違う」
俺は響輔を抱きしめながら、その肩先で目を閉じて考えた。
何でこんなときに思い出したんだろう。
普段ムカツクヤツなのに、あいつの放った言葉が今強烈な威力で脳内をぐるぐる回っている。
『時に人は絶大な権力や力を持つ人間の前に、運命や絆だけでは太刀打ちできないことを知る。
そのとき気付くさ。人間なんてあっけなく脆いものだと―――』
以前―――……鴇田が言った言葉だ。
権力か、あるいは愛情か―――
一瞬…一瞬だけでも響輔の中でこの二つの文字が複雑に交差したか、と聞いたらお前は何て答える?
響輔は断ったと言ったが、朔羅のために……
朔羅が川上を大切にしてるって分かってるから、朔羅が盃を交わす大事な相手のお嬢だから…
川上の手を取ることを
俺には響輔が少しも考えなかったとは思えない。
「逃げ、なんて言うて俺が悪かった。
お前の気持ち、痛い程知ってるてのにな」