。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
「このお嬢さん方が案内してくれはったんえ?」
女の人が本当に嬉しそうにあたしを紹介してくれて、あたしはすっかり逃げ出すタイミングを逃した。
「それはそれは。家内が世話になったようで。おおきに」
「い、いえ…」
何とか逃げ出すタイミングを計っていたあたしは
ポーン…
エレベーターが開く音に耳を傾けた。
このエントランスホールからエレベーターホールまで僅かな距離。
エレベーターの重い鉄の扉が開いて、影になった部分からすらりとした脚だけが見えた。
一瞬叔父貴かと思ってギクリとしたけど、どうやら違った。
でも―――…
何だろう…
ただ立ってるだけなのに、床からひしひしと伝わってくる威圧感―――…
殺気とも違う。
ごくり、と喉を鳴らしてエレベーターを見ると、
「ヨウ。
弓枝姐さん到着したて聞いたんやけど」
その人物はその威圧感とは反対に上品な物腰の喋り方をした。
あたしは目の前に居るダークスーツのイケメンが“ヨウ”なる人物だと知った。
ヨウさんは軽く手を挙げると
「ミチさん。今行きますよって。
ほな、行こう。
お嬢さん方、ほんまにおおきに」
ユミエさんと言われた女の人を促しエレベーターホールに向かう。
二人がエレベーターに乗り込み、扉が閉まる瞬間
正面玄関に太陽の光が反射して三人の姿が露になった。
ヨウさんを呼んでいた男―――
上品な口ひげをたくわえていて、その下の薄い唇が僅かに吊りあがる。
ふっと微笑を浮かべてこちらをまっすぐに見据えてくる。
睨まれているわけではないのに、その眼孔は鋭く
まるで射抜かれるような迫力ある視線。
あれは…―――虎の眼だ―――