。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
「もっと弟と距離をつめるべきじゃないですか?
あなた方は親子だと言うのに妙にぎくしゃくしてる」
ドクターが一歩近づくとあたしの頬をそっと手で包んだ。
冷たい手―――…だった。
「何それ、カウンセリングのつもり?あんたいつから精神科医に転向したの。
てか、近いわよ」
嫌味ったらしく言って離れようとするとドクターがあたしの手を掴んで引き止めた。
「何なのよ!」
苛立って手を振りほどこうとするも、ドクターの手は意外にも力強く、いつになく真剣な顔で表情を読み取るように覗き込まれた。
「私はカウンセラーではなくただの内科医ですよ。
イっちゃん、顔色が悪いよ。
体温もいつもより1℃5分ほど高い。食欲もないみたいだし、
風邪かい?」
風邪―――…?
「そんなんじゃないわ。ちょっと寝不足なだけ」
「寝不足…それはいけない。ちゃんと食べてるのかい?
女優さんは大変な職業かもしれないけど、疲れてるときこそちゃんと食べた方がいい」
「医者らしい意見どうも。てかお節介よ」
今度こそ振り払うと、
「医者“らしい”じゃなくて医者なんですがね」とドクターは苦笑を浮かべる。
「白衣を着てなきゃただの変態よ。セクハラで訴えてやる。
訴えられたくなきゃついてこないで」
ビシっと指差すと、ドクターは軽く両手を挙げて降参ポーズ。
何よ…
ドクターと言い、鴇田と言い、
兄弟揃って何なのよ!
あたしがくるりと背を向けると
「イっちゃん」
ドクターがしつこく声を掛けてくる。
「何?」
不機嫌そうに振り返ると、
「これは医者としてじゃなく、君の“伯父”としてアドバイスだ。
父親とちゃんと話した方がいい。
今の君の気持ちを正直に―――」
ドクターの言葉が妙に苛々を刺激した。
「分かった口利いてるんじゃないわよ!」
思わず怒鳴ると、ドクターは苦笑いで
「そんなに怒らないでください。ほんのアドバイスなので」
と、これまた神経を逆なでするような発言。
握った拳が…爪が手のひらに食い込んで痛い。
「あんた、どこまで無神経なの。
あたしには関係ないんだから!あいつが誰と結婚しようと
あたしには意味がないんだから」
そう怒鳴ると、
「イチ!」
背後から肩を掴まれ振り返ると、いつの間にかそこに鴇田が立っていた。