。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
俺を―――手放すと言うのか。
貴方の手の中から開放され、自由に翔びたつ―――
そんなこと一度たりとて考えたことがなかった。
俺が彼の元を去るときは、俺が死んだときだけだ。
会長がこんなことを言ったのははじめてのことだった。
お嬢にあんな風に怒鳴って気弱になっていらっしゃるに違いない。
膝を付き、会長の元にしゃがみこむと俺はゆっくりと彼を見上げて手をそっと握った。
いつもより体温が熱いのは―――つい先ほどまで怒りで興奮していたからだろうか。
「何を仰るやら。
私は貴方に一生ついていくと決めたのです。
それに両翼を折られても、
貴方が見せてくださるから。
空よりも高い―――
龍の聖域を」
俺はゆっくりと立ち上がり彼の背中に手を回して、強く抱きしめた。
こんな風に彼を抱きしめるのはいつ以来だろう。
俺は彼の生まれたときから彼を知っている。俺の腕の中にすっぽり納まった小さな少年は
いつのまにか俺よりも大きく、
立派に美しく、そして強く―――
育たれた。
彼はもうあのときの少年ではない。
「私を連れていってくれるのは貴方だけです。
あなたとお嬢は比翼の鳥かもしれない。
同じ龍を共有する連理の枝。
でも私は―――
私にとっての比翼の鳥は貴方なのです。
貴方の片翼にならせてください。
貴方が私をお望みなら貴方のお傍に―――
堕ちるも翔ぶも、貴方と共に。
連れて行ってください。聖域に」