。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
彼はまたも振り払うと思いきや、糸を切られたマリオネットのようにだらりと腕を垂らし俺の腕の中で大人しくなった。
「バカだな、お前も。
本当にバカだよ……
だけど―――お前にはすまないことをした」
会長は俺の背中にそっと手を回すと震える手でぎゅっと俺のワイシャツを握った。
「……教えてくれ鴇田……
何故…
何故、俺には未来がない。
何故、朔羅をこの手で幸せにできない」
彼は縋るように俺の両腕を掴み、今にも泣き出しそうに瞳を揺るがせ答えを乞う。
俺はその問いになんと答えるべきか、悩んだ。
だが悩んでも答えは出てこない。
さっきはあんなに簡単に答えられたのに。
俺は彼の頬に走る一筋の赤い線をそっと指の腹で撫でた。
「お怪我をしていらっしゃいます。手当てをしなければ」
「手当てなんて不要だ……俺の問いに答えろ、鴇田。
お前は…お前だけはいつでも俺を正しい道へと導いてくれた。
お前だけは全てを知っても俺の傍で、変らず俺に仕えてくれた。
お前だけなんだ、翔」
久しく呼ばれていなかった名前で呼ばれて、その声がわずかに震えていて俺の心が大きく揺さぶられた。
いつも冷静でこんな風に不安定な状態を、俺ははじめてみた。
会長の切れ長の瞳から一粒きれいな涙が零れ落ちる。
彼は涙を流している。
極道の頂点に立つ唯一無二の絶対的王者の―――はじめて見せる涙。
俺は彼の両肩を抱きしめ、彼の頭を抱き寄せた。
「私がここにおります。
どんなことが起ころうと、私はあなたの傍を離れない。
あなたを裏切らない、それだけは約束できます。
だから未来がないなんて悲しいこと
言わないでください。
私はあなたの未来を変えられることはできないかもしれないが、あなたが望む未来をお手伝いすることはできます。だから―――…」
悲しいこと、言わないでください。
気づくと、俺の目からも涙がこぼれていた。
一回りも離れた……自分から見たらいつまでも少年のような彼。
弟とは違う、親友とも違う。
確かな絆なんてないのに
でも俺はこの人を大切だと思う。
大切にしたいと思う。
「望むのはたった一つ、朔羅の幸せだ。朔羅の笑顔だ。
あいつが笑ってるだけで……俺は幸せになれるんだ。
鴇田……朔羅を頼む……」
彼はぎゅっと俺の腕にすがり、そっと涙を流した。