。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
「キリが淹れたコーヒーの方がうまいな」
会長はネクタイを締めながら意地悪そうに笑う。
「バリスタじゃなくて申し訳ございません」
俺も皮肉っぽく笑うと
「いや?ただお前と“ここで”こうやってコーヒーを飲むのも久しぶりだな、って思っただけだ。
“夜明けのコーヒー”みたいじゃねぇか?」
冗談を飛ばせるまで回復したのは確かなようだ。
「それはお嬢となさってください」
「スネーク狩りの件が片付いたら誘うつもりだ」
さらりと言われて、言い出したのは俺だと言うのに返す返答に困った。
言葉を考えていると
いつの間にかきっちりネクタイをしめた会長は上着を肩に掛け
「出かけてくる。
お前は龍崎グループ本社の留守を守れ」
それだけ言って立ち上がった。
「どちらへ?」当然な質問に
「極秘だ。少し確かめたいことがあってね」
会長は無表情に返す。
「護衛は?」俺がさらに聞くと
「それも不要だ。案ずるな、危険な場所ではないことは確かだ」
会長は「それ以上聞くな」と言うオーラをにじませて上着を翻し
玄関口へ向かった。
「オートロックだから鍵の心配は要らない。お前も時間になったら出社しろ」
それだけ言い残して会長は出かけていってしまった。
彼がどこに行くのか―――今までの俺だったら気にも留めなかったが、今は……
俺は内ポケットら辺を手で押さえ、
もしかして彼は俺の秘密を掘り起こそうとしているのじゃないか―――
そんな風に思えて
怖かった。