。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
あたしはママの背中にきゅっとしがみついて首を横に振った。
「…いらない」
「?
そう?ママは欲しいわよ?
一結のパパは怖そうに見えるけど本当は優しくて、かっこよくて、不器用だけど一生懸命で
とても愛情深い人なのよ。
私たちは決して他人に後ろ指差されるような関係じゃなかったわ。
ママはいまでもパパを
愛してる」
この頃ママの言ってることは少しも理解できなかった。
言葉通り意味がわからなかったのだ。
ただ「愛してる」と言う部分だけ、なんとなく分かった。
それはとても大切でとても温かい言葉だと言うこと―――
意味すら分からないのに何故だか心がぽかぽかあったかくなった。
きゅっと締め付けられるようで、でもそれが心地よい。
ママはきっと父親にそう言われて幸せだったに違いない。
あたしもパパからそう言われたら幸せになれるのだろうか。
ママの後ろで束ねた髪の先が揺れて、白いうなじに汗が浮かんでいた。
「…ちょっとごめん。休憩」
ぜぇぜぇ…ママは息を切らしながら自転車のハンドルを握り足を下ろした。
坂はまだ半分ほどで登っていく傾斜が続いている。
「ママ、いちゆうおりるよ」
ママのブラウスの裾をちょっと引っ張ると
「大丈夫よ、ママは一結一人ぐらい乗せて登れるんだから。
ママと一結二人で一緒よ。
ね、一結」