。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。




「きょっ…!」


響輔っっ!と言い出しそうになってあたしは慌てて口をつぐんだ。


すぐ近くであたしのマネージャーがまだ監督に挨拶してるし。


響輔は白いTシャツに濃い目のジーンズ。腰にチェック柄の長袖シャツを巻いていて


首には青い紐のAD証明証がぶらさがっている。


どこからどう見てもADの一人だ。


でも通行書の名前が「田中 義男」になっていて、


「あんたいつから“タナカヨシオ”になったのよ」と思わず睨み上げると


「ああ、これな。ちょっと貸してもろたん」と響輔は悪びれもせず通行書を軽く持ち上げる。


貸してくれたなんて嘘よ。


何らかの方法で奪ったに違いない。


理由がなんであろうと、わざわざこんなところまで響輔が来てくれて嬉しいけど、


さっきまで監督に叱られていたのを見られていたと思ったら今すぐ時間を巻戻したい。


「い、いつからいたの?」


「三時間ほど前かな。すぐ終わる思うてたんやけど


ドラマの撮影てのも大変なんやね」


響輔はキャップの下で目を細めて現場を目配せ。


三時間前から……!!


うぅわ、なんて最悪なところを見られたの。


女優として女として、恥ずかし過ぎる。今すぐこの橋から飛び込みたい。


思わず俯いて


「……なんで来たのよ。なんで見てんのよ」


とスカートの上でぎゅっと手を握り地面を睨んでいると


「話したいことがあったから。あんたの電話繋がらへんし


調べたらここで撮影してるって聞いたから」


響輔は悪びれもせずさらりと言う。



何で…



何であたしが声を聞きたいときにあんたは電話に出てくれなくて


傍に居てほしいいときに会えなくて




でも会いたくないときに何であんたは居るのよ。






あたしはさらにぎゅっとスカートを握った。





会いたくなかった。




こんなかっこ悪いとこ見せたくなかった。






だってあたし






この回で降板なのよ?







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