。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
「さぁ、知らね」
あたしは俯きながら解けない問題をじっと見つめた。そうすることで解けるわけじゃないのに。
問題をシャーペンでなぞって、力を入れ過ぎたのか、その芯がポキリと折れた。
千里も、どうやらそれ以上詮索したらマズいと判断したのか、
「まぁ女子って色々フクザツだしな。色々あるよな、うん」
と自己解決した。
「言っとくが喧嘩はしてねぇぞ。あたしらは超仲良しだ。
こないだだって一緒に水着選びに行ったもんねー」
自慢するように言ってやると
今度は千里の方が慌ててあたしから顔を逸らした。
レポート用紙にピカソもびっくり!な訳の分からない落書きをしている。
「ぷ…プール俺も進藤先輩も誘ってくれてサンキュ…ま、まぁ考えりゃリコとはそこで会えるわけだしな…」
そう言った千里の顔は真っ赤で、見てるこっちの方が恥ずかしくなる。
千里とは―――小学生の頃、都営のプールに何度も一緒に遊びに行った。千里のおばちゃんが夏休みになると連れて行ってくれた。
だからあたしの夏休みの思い出は大抵、その決して大きくないプールと叔父貴と雪斗と眺めた花火大会だった。
でも毎年毎年飽きもせず『楽しかった』と言えるぐらい、あたしたちにとっては楽しい行事だったのだ。
でも―――あのときから心も体も成長したあたしたち。思春期真っ只中のあたしたちは、あの頃と同じ気持ちでいられない。
同じ景色の中、同じ感情を共有できない。
「宿題―――全然進まないな」
あたしは折れた芯の欠片を指で弾いて、シャーペンから新しい芯を押し出した。
「エリナでも呼ぼうかな」
あたしの独り言に、微妙な空気を回避したあたしの発言に少しほっとしたのか
「エリナって?」
と千里もいつもの調子に戻って聞いてきた。