。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
でも結局、俺はそれ以上突っ込んで聞けず、
俺の集中力も途切れた。
諦めて響輔と同じようにコーヒーを入れて席に戻ろうとすると、ちょうどドリンクを入れにきた客の一人とぶつかった。
訂正。ぶつかってこられた、だ。
お喋りに夢中だったんだろう。
大学生ぐらいの若い女だ。
幸いにもグラスの中身が零れることはなく、
「あ、すみません!」女が慌てて頭を下げる。
「……いえ」
曖昧に受け流し自分の席へと戻ろうとすると
「ヤバ!超かっこいい!!超好み!♪」
「ラッキーじゃない!!モデル!俳優っ!?」
女は連れの女とキャイキャイ喋りながら俺の行方をいつまでも見送っていた。
視線がイタイ。
見られるのは慣れてるけど今は推理に集中したいし。
だけど
一旦切れた集中力は早々戻るわけでもなく、
「ねぇ!あのテーブルの男の子たちすっごいかっこよくない!?」
と、今度は違うテーブルでひそひそ会話する声が聞こえてくる。
小声で喋ってるつもりだろうけど、俺たちの耳にしっかり届く大きさだ。
何で女の高音ってこんなに響くんだろうな。
「場所移動します?」
響輔も同じことを思っていたのかさっきの不穏な空気はどこへやら、居心地悪そうに店内をきょろきょろ。
「お前がここを指定したんだろ?大学でも近くにあんのか?
女子大生ばっか」
「前に一度来たときはそれほどでもなかったんですけど。サラリーマンばっかだったし」
「まぁ新橋が近いからな」
でも今は夕時だ。サラリーマンが帰宅するにはまだ早い時間帯だし、
「どっちにしろ、ここじゃ集中できね。場所変えようぜ」
俺はコーヒーを飲んでノートを閉じようとしたけど
その手をふっと止めた。
さくらだ
何故ここになってあのキーワードを思い出したのか、それは閃きでもなんでもない。
何気なくしていた会話の中で、
俺はごく最近この言葉を耳にしたことを思い出したからだ。