。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅳ・*・。。*・。
あたしはテディを慌てて拾い、次いで鳴り続けるスマホを見た。
着信を確認すると「玄蛇」の“今の”名前が表示されていてあたしは思わず唇を引き結んだ。
玄蛇から連絡が来ることはあまりない。
だから少しだけ驚いた。
「なに?
あたしこれからテレビの収録なんだけど」
『もしもし』も何もなしにぶっきらぼうに出ると
『時間が無いから簡潔に言う。いいかい?
一度しか言わないから聞き零さないように』
と、向こうはそれ以上にそっけない。と言うか真剣そう。
……何。
何があったって言うの。
玄蛇の只ならぬ雰囲気に急に不安になった。
『ネズミの一匹が君の元へ向かった。
恐らく五分以内で到着する』
ネズミが―――
「何であたしのところに!!ネズミって一体何者なのよ」
てか何で殺さなかったのよ!時間はいっぱいあったでしょう!!
最後の言葉は飲み込んであたしが勢い込むと、あたしの髪を巻いていたヘアメイクとマネージャーがびっくりしたように顔を合わせて目をまばたいた。
あたしは適当な言い訳も返せずギリギリとスマホを握ると
『会えば分かる。
それよりネズミに私のことを聞かれても黙秘を通して。
それからケータイの着信はすぐに消すように。
それからヤツにケータイを渡すな』
いつになく真剣に、けれど淡々と言われたその言葉は命令口調だった。
でもそれをごちゃごちゃ言ってる暇はない。
「五分以内ってどうゆうことよ。
あんた、また近くに居るの?」
『まさか。私は仕事中だ。
テレビ局の監視カメラの映像をハッキングしてある。
私の顔認証システムでヤツの姿を捉えたまでだ』
顔認証システム……相変わらず歳のくせしてハイテクなんだから。
「とにかく分かったわ。あんたのこと黙ってればいいのね」
慌しく通話を切り、言われた通り着信履歴を消そうとしていると
それよりも数秒早く
コンコン
控え室をノックする音が聞こえた。
あたしは響輔がくれたテディと、ケータイを握り締め
ごくり
喉を鳴らした。